Hotelier2002 [ Home | About... | Senses... | Beyond... ]


ドンヒョクのPDAより: 10 「抱擁」

僕たちが東海から戻ってくるころには、時計の針は9時をまわっていた。レオは、疲れたから夕食はいらないと言ってそのまま部屋に戻った。

僕はスターライトに行き、ブランデーのボトルとグラスを頼むと、飲み始めた・・・。

今日の午後感じた、鋭く強い胸の痛みは、ブランデーが喉を滑り落ちていくとともに、少しずつ治まってきていた。

だが、父親に捨てられたという苦痛が治まるにつれ、今度は孤独という苦痛が僕を苛みはじめていた__その苦痛は無数の蟻が這うように僕の心を這い回り、ちくちくとした痛みを生じさせていた。その痛みは鈍いものではあったが、どんなに振り払おうとしても決して離れなかった・・・。

僕がまだ家にいた頃、僕の養父母は善良で正直な人たちだった。彼らは僕の面倒をよく見てくれたし、病気の時には看護してくれたし、ちゃんと食べているのか、勉強をしているかと気を配ってもくれた。だが、彼らがそうやって僕を構うほど、僕は自分がみじめになり、彼らのもとを離れたいとよけいに思ってしまうのだった。

学校もまた僕にとっては決して楽しい場所ではなかった。学校の中でのただ一人のアジア系学生であり、他のクラスメートの誰よりも成績がよかったために、僕はクラスに全くなじむことができず、そこに僕の居場所を感じたことは一度もなかった。

どこに行こうと、何をしようと、僕が他の人とは違っていることに僕は気づいていた。

僕が自分でそう望んだわけじゃない。僕は他の人と同じように普通の人間でいたかった。それなのになぜそれがなかなかできないのだろう?

10代の頃の自分のことを、僕はなぜかほとんど覚えていない。たぶんいろんなことがあったはずだが、まるで自分がそこにいなかったかのように、その部分の僕の記憶は空白だった。

その他で僕が覚えているのは、ハーバード時代のことだ。僕は必死に勉強した・・・死に物狂いに勉強した。
その頃、僕はレオに出会った。自分の稼いだ70ドルを手に、彼のオフィスを訪ねた日のことを僕はまだ覚えている。
僕は一緒に仕事をしようとレオを誘った。彼はしばらく僕の顔を眺めていたが、「OK」と答えた。そして僕たちは握手を交わした・・・。

そのとき僕はようやく友を得た__僕を信頼してくれ、そして僕のほうも信頼を寄せられる相手を。
だが、レオとは長い時間をともに過ごしてきたが、僕の人生は仕事一色だったから、彼と仕事以外の話をすることはめったになかった。

はっきりしているのは、僕には失うものなど何もないということだった。僕には家族もなく、金もなく、本当に僕の存在を気にかけてくれる人もまたいなかった。だから僕は、明日のない人間のように、がむしゃらに闘ってきたのだ。

そうやって僕は次から次へと勝利を収め、そうするうちに、有数のハンターだという評判を勝ち得ることに成功した。そうなると、名声や、金や、高級車、豪邸、ヨット・・・そういったものも自分からついてきた。

金さえあれば、僕は自分のプライドを取り戻せると考えていた。

誰にも頼らずに幸せになれると僕は思っていた。

ここに来るまでは、自分は人生に成功し、幸せなんだと僕は思っていた。

父親のことなど自分ではもう気にしていないつもりだった。だがそれならなぜ彼の姿を見るだけで、こんなに心が疼くのか?
そして、傷ついたときに最初に僕の心に浮かぶのは、なぜあなたのことなのだろう?

ジニョンさん、あなたも孤独を感じることはありますか?
全くの孤独感がどういうものなのか、僕はあなたに伝えたいと思ったが、あなたにそれが理解できるだろうか? あなたにとって僕はどんな存在なのだろう? 
僕はあなたにはっきりと自分の気持ちを伝えたつもりだ。 でもあなたはなぜか僕を避けつづけ、距離を置こうとしている。
なぜあなたは僕にそんなことをするのだろう?


階下でハイヒールの靴音が聞こえたかと思うと、あなたの声がした。僕は1階を見下ろした。閉店時間を過ぎても立ち去らない長居の客を探して、あなたはフロアをきょろきょろ見回していた。

ジニョンさん、僕を探しているんですね。僕はここです・・・

あなたは僕に気がつき、微笑んだ。僕がずっと求めていたもの・・・それは、あなたのその笑顔だった・・・それを見ているだけで僕の心は慰められていった。

あなたは階段をのぼって僕のテーブルのところにやって来た。

「ジニョンさんも座ってください、一緒に一杯いかがですか?」 と僕は言った。
あなたはその場に立ったまま、また「規則が・・・」と言い出した。
規則はわかってる、だがそれを守るつもりは全くなかった。

規則なんかこの際どうでもいい!___この時の僕は、32歳の大人ではなく、聞き分けのない10歳の子供のようにわがままに振舞いたかった。今夜の僕はそれくらいしてもいい気がした。

10歳の子供なら、周囲のことなど何も構わずに自分のやりたいようにやれるはずだ。

僕はどうしても、あなたにここにいてもらって、一緒に一杯かたむけながら、話がしたかった。それだけでいいから、どうしても僕のそばにいてほしかった。

あなたはまた規則を持ち出し、謝った。「申し訳ありません、お客様。」
また“お客様”?
あなたの“お客様”でいたくなんかないということが、まだわかってもらえないのか・・・?

「いいでしょう、ここじゃだめだと言うのなら、外で飲みましょう。」
僕はグラスとブランデーのボトルを掴むと、外へ出た。後ろからあなたが追いかけてきた。

夜が更けて、外はすっかり冷え込んできていた。

僕は上着をスターライトに忘れてきたことに気付いて引き返そうとしたが、あなたがかわりに持ってきてくれていた。
「お忘れでしょ?」とあなたは笑った。
「着せてくれますか?」 僕がそう頼む前に、あなたは僕にジャケットを羽織らせようとしてくれていた。上着の袖を通してもらおうと、僕は手を伸ばして待った・・・。

僕にジャケットを着せようとして、あなたは僕の右手のボトルと、左手のグラス、それに自分が左手に持ったトランシーバーと、右手の僕のジャケットを交互に見比べた。二人とも両手がふさがっている。
どうしたらいいの、これ・・・?
とうとう僕たちは顔を見合わせて笑い出した。
それから、ボトルやグラスやトランシーバーを近くのベンチに置いて、改めてジャケットを着ることにした。僕が左手をジャケットの袖に通し、続いて右手を通す間、あなたは手伝ってくれた。僕はもう寒くは感じなかった。

桜の木の下をそぞろ歩いているうちに、僕の酔いも冷めてきていた。あなたと一緒にいると、僕の気分はすっかりよくなっていた。
僕が酔っぱらっていると思ったらしく、あなたは「大丈夫ですか?」と僕に尋ねたが、今日の午後から僕を苛んでいた煩悶はもう薄れていた。

でももし僕が大丈夫だとわかれば、あなたはホテルの仕事に戻って行ってしまうのでしょう? 

僕はもう少し欲張ってもいいですか?___僕と飲むのがだめだというのなら、部屋まで送るくらいしてくれてもいいでしょう?

「いいえ・・・部屋がわかりません。案内してくれますか?」
あなたは承諾のしるしにうなづき、微笑んだ。

その笑顔に僕はちょっと気をよくして、「じゃ、一杯飲んで。」とあなたにもう一度グラスを差し出した。だが、僕はまたあなたから規則云々を聞かされる羽目になっただけだった。

「すみません、お客様、お酒はダメなんです。」
「カルグクスはいいのに?」と僕は言った。カルグクスは苦手だと僕はそのうちあなたに伝えないといけないな・・・
あなたはくすくす笑い出し、つられて僕も声を出して笑った。

僕の心は急に軽くなった。東海に行ったことも今なら口に出せそうだった。
僕が今日東海に行ったと聞いて、あなたは何の用で?と僕に尋ねた。

詳しくは話せなかったが、僕が今日どんなにあなたに会いたいと思っていたかということだけは伝えたかった。

「東海からジニョンさんに電話したんですが、つながらなかったので、メールを送ったんです。」
「何て書いたんですか?」あなたは好奇心にかられたように訊いた。

僕が何と書いたかって・・・僕があなたに伝えたかったのは・・・

振り返ると、あなたは僕の返事を待っていた。
「発信者;シン・ドンヒョク・・・受信者;ソ・ジニョン。」
メールはそう始まっていた。
僕に「件名は?」と尋ねたときも、あなたは笑顔のままだった。

件名・・・件名は・・・。

僕はあなたを見つめた。僕の心に浮かんだ言葉は一つだけ・・・それは「僕の半身へ」という言葉だった。
あなたの顔からいたずらっぽい笑顔は消えたが、なおも問いは続いた。「・・・内容は?」

自分の気持ちを伝えるべき時だった___いつからか、どうしてなのか、自分でもわからないうちに、僕はあなたを深く愛してしまっていた。

どうか、僕から離れないで下さい、僕はジニョンさんがいなくてはだめなんです・・・

だが僕のメールはいまいましいトランシーバーに遮られた。
「はい、ソ・ジニョン・・・いえ、ソ支配人です・・・。」とあなたがトランシーバーに答えた。
全く、あなたらしいな・・・僕は可笑しかった。どうやら、酔っぱらっているのは僕じゃなくて、あなたのほうらしい・・・。
トランシーバーに答えてあなたの口から出た「ダイヤモンド・ヴィラ」という言葉が僕の興味をひいた。「ダイヤモンド・ヴィラ?」
あなたは正面に建つ、ライトアップされた建物を指差した。

「見学してもいいですか?」僕を連れて行ってもらえますか?
少し逡巡した末、あなたはうなづいた。僕は微笑んだ。あなたといられる時間を少しでも長くできたことが嬉しかった。

「ダイヤモンド・ヴィラ」は、2階建ての壮麗な建物で、ライトアップされて、一面のガラスが闇の中で眩い輝きを放っていた。
ヴィラの入り口に向かって歩いていると突然、僕が何の仕事をしているのかとあなたは尋ねた。
僕は思わず言いよどんだ。
何と答えればいいのだろうか・・・それも、どんなふうに?
僕の目的を知ったら、あなたはどうするのだろう・・・僕のもとを去って行ってしまうのだろうか・・・?
 
「“狩人”かな。」とようやく僕は答えた。「企業の狩人といったところです。」
あなたは興味をひかれたようで、もっと詳しく聞きたがった。

まだ知らないほうがいい・・・少なくとも今は。

今日はこの話はもうこれ以上したくなかった。今日はあまりにもいろんなことがありすぎた。
「中を見られますか?」と僕は尋ねた。
あなたはダイヤモンド・ヴィラの戸の鍵を開けた。
そこは大きなホールになっていて、天井には大きなシャンデリアがきらめき、重厚なカーテンと贅を尽くした調度が設えられ、心地よい音楽が流れていた。
誰もいなかった___このヴィラの中にいるのは、あなたと僕の二人きりだった。

あなたはダイアモンド・ヴィラについて手順どおりに説明しはじめたが、それはほとんど僕の耳には入っていなかった。僕はあなたを見つめ、近づいて右手を差し伸べた。

手を取っていただけますか?

自分の取った行動に自分でも驚いていた。僕があなたとダンスを踊りたいと思ったなんて・・・。
あなたもまた驚いているようだった。あなたは僕の差し出した手を見たものの、僕の意図を測りかねていた。
僕は改めて正式にあなたにダンスを申し込んだ。あなたは笑い、「でも、お客様、私ダンスは・・・」と言いかけた。

あなたはビリヤードも苦手なら、泳ぐのもダメ、おまけにダンスも踊れないんですね・・・ホテルの仕事以外には何にも知らないみたいだ。

だがそんなことは大したことではなかった。僕を苛立たせたのはあなたが僕をまた「お客様」と呼んだことだった。

あなたにとって僕はただの客に過ぎないのか、それともそれ以上の何かをあなたも僕に感じてくれているのか・・・?
あなたにとって僕がただの客にすぎないなら、僕は「お客様」と呼ばれ続けるしかない。
だが、男としてなら・・・僕は「ドンヒョク」と呼ばれるべきだ。
僕はあなたの「お客様」でいたくなどなかった。僕はあなたに「ドンヒョク」と呼ばれる存在になりたい。

「ドンヒョクと呼んでください。さあ・・・」

「ドンヒョク・・・さん・・・」長いことためらったあげく、ようやくあなたは小さな声で言った。
僕はどう考えたらいいのだろう? もっとはっきりさせないといけない。

僕があなたのほうへと近づくと、あなたは後ずさりした。だがどこに逃げられるだろう・・・あなたがこんなにも僕のそばにいるのに、僕があなたをこのままどこかに行かせられるわけがない。
僕の右手はあなたの腰にのび、そっとあなたを引き寄せた。あなたは僕の手に抗って少しよろめいたものの、おとなしく僕の肩に頭をもたせかけた。

それは完璧なダンスだった。
あなたは僕の腕のなかにいて、僕のリードに従ってステップを踏んでいた。


僕は目を閉じた・・・あなたの香りを、この瞬間の自分の想いを、記憶にとどめておくために・・・そして、この神聖な一瞬を永遠に自分の心に焼きつけておくために・・・。

僕は腕の中であなたの身体がかすかに震えているのを感じていた。やがて、あなたが僕を見つめているのを感じて、僕は目を開けた。あなたの目には、とまどいが浮かんでいた。
僕はまだ自分の気持ちをあなたに伝えきれていないのかもしれない・・・。
「大事なのはバラじゃありません・・・バラは、贈ろうと思えば誰でも贈ることができますから・・・。僕は長い旅をして、この国にやって来ました・・・自分が忘れてしまいたいとすら思っていた故国へ・・・あなたのもとに来るために。」
僕のこの想いをあなたは感じてくれているだろうか?

するとあなたは、自分は大雑把で単純な人間だと自嘲気味に言った。
・・・そんなこと、あなたに言われる前にとっくに気づいてるよ。

僕が本当に望んでいるのは単純な人生だと聞くとあなたは意外そうだった。でもそれは本当だった。僕は単純で、でも純粋な人生を、あなたと送りたいと思っていた。
僕の目を通してゆがめられたりせずに、誰かと話したり、心を通わせたりできるときが来るのを僕はずっと願っていた__自分の過去や自分の背負った心の重荷を解き放ってくれる誰か、僕をありのままの自分でいさせてくれる誰かを待ち望んでいたのだ。

「・・・本心ですか?」あなたが言った。
僕があなたに嘘をつけるはずがない。僕は黙って目を閉じた。本当はあなたを力の限り強く抱きしめたかったが、あなたの華奢な身体を壊してしまいそうで、できなかった。そのかわりに僕は、できる限りしっかりとあなたを抱きしめた・・・あなたを想って高鳴るこの胸の鼓動があなたに伝わるように・・・。

だがその時、またもトランシーバーから流れる声が僕たちをさえぎった。
「今、ダイヤモンド・ヴィラの前です。ソ支配人、どこですか?」
あなたは驚いて僕から身体を離した。
だめだ、僕はまだあなたを行かせられない・・・。

あなたは僕を見つめていた。僕の気のせいだったかもしれないが、あなたも僕からこのまま離れたくないと思っているような気がした。

ありがとうジニョンさん・・・。
あなたを愛しています・・・でもそれ以上にあなたの愛が僕には必要なんです。
僕はあなたを守りたい・・・でも本当はあなたの庇護を必要としているのは僕のほうです。


「誰にも邪魔されずに、二人きりでいたい・・・ジニョンさんを僕の腕に抱いて・・・いいえ、僕がジニョンさんの腕に抱かれて・・・」
最後までメールを読み終ると、僕は心の中で“送信”ボタンを押した。

僕の“メール”はすぐに届いたようだった。メッセージを受け取ったしるしにあなたは僕に微笑みかけた。あなたが“受信”してくれたことがわかって、僕も微笑んだ。


その時、トランシーバーがまた割って入った。
今度はあなたはトランシーバーに答えてもいいかどうか僕に尋ね、僕はうなづいた。
トランシーバーに何か言おうとしたあなたは、ドアの外にすでに相手が来ていることに気づいて、あわててドアのほうに向かったが、あなたが開ける前にドアは開いた。


ハン・テジュンだった。


「こんなところで何を?」とハン・テジュンがあなたに訊いた。

何をしていようが、お前には関係ない。ジニョンさんはいま僕と一緒にいるのだから。

「総支配人、まだきちんとご挨拶していませんでしたね。僕はシン・ドンヒョクといいます。」
「存じ上げております、シン様。サファイアのお客様ですね。」 総支配人が答えた。 「もう夜も遅いので・・・」

わざわざそんなことを他人に教えていただかなくて結構。

僕は自分の行きたい時に行きたいところに行きます。立ち入り禁止区域だから? それがどうしたと? 僕がどこに行こうと、誰にも禁止などさせない。

だがハン・テジュンは譲らなかった。
僕はあなたを見た。あなたは顔を伏せていた。

僕はあなたを困った状況に追い込んでしまったのですね・・・あなたを困らせているのなら、僕はもう行くことにします。

僕はダイアモンド・ヴィラの戸を開け、一人で出て行った。
僕の部屋まで送るという約束をあなたに守ってもらうこともできないまま。

部屋に戻った僕はベッドに横になり、考えていた。
寝る前に、あなたに電話をしなくては・・・おやすみなさいも言えないままだったから。

あなたは電話を取るなり、すごい剣幕でまくしたてた。

僕が何か悪いことでもしましたか?
どうしてそんなに僕に怒っているんですか?
こんな遅くに電話してごめんなさい。今少しだけ話せますか?

するとあなたは別の誰かの電話と勘違いしたのだとあわてて説明した。
きっとMR.チョコレートのことですね・・・

「眠れなくて・・・さっき踊っていたときのことを考えていました。」 僕は自分の気持ちをあなたには隠したくなかった。
「実は・・・私も。私も眠れなくて。」 あなたの言葉に僕の心は嬉しさで一杯になった。
「困らせてしまったんじゃないかと気になって・・・。」 と僕が言いかけると、「まだ震えが止まらないんです・・・。」 と優しい声であなたが答えた。
「僕が言っているのは、そのことじゃなくて・・・。」 僕は微笑んだ。 「総支配人からチョコレートの匂いがしたけど・・・。僕は来年のバレンタインデーまで待つことにします。」
あなたはしばらく黙り込んだのち、「じゃ、来年のバレンタインデーまで滞在なさらないと。」 と言って僕を笑わせた。
あなたの口から出ると、こんなジョークまでなぜこんなに楽しいものになるんだろう・・・

本当はこのままずっと話していたかった。でも、ハードな仕事のあとであなたは疲れているはずだ。もう電話を切らないといけなかった。
「おやすみなさい、ジニョンさん。」 これが言いたくて僕は電話したんです。
「おやすみなさい・・・ゆっくり休んでください。」 そしてあなたのこの言葉を聞きたかった。


あなたは電話を切った。僕も電話を置き、灯りを消した。目を閉じると、あなたの震えている感触がまだ僕の腕の中に残っていた・・・その晩、僕はなかなか寝つけなかった。

From: Dong Xian’s PDA “To hold and be held” by TT
Translator: silverblue
Coordinator : Milomomo

 

ジニョンの思い:10 「お休み、ドンヒョクさん」


夜も大分ふけて来た。「ソ支配人、お呼びですよ」スターライトが1人のお客様によって、閉められないらしい。私はスターライトの中に急いで入っていき・・・どこ? いないわよ。

するとウェイトレスたちが上を指さしている。私は上を向き、2階の手すりにもたれかかって、私に微笑みかけているあなたを見つけた。

私の顔は暖かくなり、心臓の鼓動が少し早まった。

私は緊張して微笑んだ。どうしてあなたは私にとって、そんなに影響力があるの?私は螺旋階段を上って行った。

あなたは私が到着するにつれ、椅子に腰かけた。私は元気な笑顔と共に「今晩は」

ソ支配人としての挨拶。

「座って。一緒にどうですか?」とあなたは言った。え~っと、規則ですのでできません。まだ勤務中ですし。私は謝るように微笑んだ。

「スタッフも困っていますし。」

そう、あなたは正しいわ。スターライトの営業時間はもう終わっている。でも、たとえスターライトが今夜は終わったからと言っても、私はまだ勤務中です。私はあなたとここではご一緒出来ないんです。申し訳ございません、ドンヒョクさん。いえ、お客様。

あなたは立ち上がって「では外で飲みましょう」。

ブランデーのボトルとワイングラスを手に、あなたは階段へと向かった。あ、上着!お忘れですよ。私は急いでそれを手に取り、後を追った。

あなたは一番したの段でつまずきそうになった。私は手を貸して差し上げたかったが、あなたは大丈夫と主張した。

たとえあなたはほろ酔い気味でも、スタッフに悪かったと誤った。

私はアン達にお部屋の方へ支払い請求をまわすよう指示し、あなたの後を追って外へ出た。

あ、お待ちください。上着をお忘れですよ。外は寒いですから・・・。私は出口でやっとあなたに追いついた。

「やっと追いついたわ。」

私は少し息を切らしている。「これをお忘れですよ」あなたを見て、微笑んだ。はい、おかけします。

でも待って、両手が塞がってるわ。右手にはブランデーのボトル、左手にはワイングラス。そして私の左手には無線、右手にあなたの上着。どうやって上着をかけてあげられるのかしら?

私たちは顔を見合わせて、笑い出した。

最終的に、私たちは他の全てを近くのベンチにおいて、それから上着を着ることにした。

「さあ、どうぞ」私は上着をあなたの背中で広げ、あなたはまず左腕を袖に入れた。そして私は右側に行き、あなたが右腕を入れやすいように手を貸した。

さあ、やっと上着が着れましたね。私は微笑んだ。

それにしても、どうしてそんなに飲んでしまったのかしら?今夜のあなたの目は、何かが違うわ。これほどの成功を収めた人に、いったい何があったのかしら?

私たちはサファイアへの道を歩いた。桜が咲ほこる下、涼しげな夜。あなたは少し千鳥足で、私はあなたの腕をつかんだ。大丈夫ですか?

あなたは部屋がどこか分からないと、私に言った。

「いいえ・・・部屋がわかりません。案内してくれますか?ソ支配人。」

もちろんです、喜んで!私は元気に返事した。

あなたはまた私に一緒に飲むように誘ったが、すみません、今は出来ないんです。

私は子供のようなあなたを見た。「ではカルグクスなら良いですか?」とあなたは冗談を言い、私はクスっと笑った。

今日、東海に行ったんですって?私もそこ知ってます。とても景色の良い所・・・。仕事でも観光でもなければ、どうしてそこへ?

メールを下さったですって?「本当に?」すみません。忙しくって、まだチェックしてないんです。

何て書いてあるんです?

内容を知るのが、なぜか不安ではあったが、あなたから聞きたかった。

「後ほどメールを読みますが・・・でも・・・なんて書いてあるんです?」

私は興味深々にあなたを見た。

あなたは数歩歩いて、止まって、しばらく考えて・・・こちらを向き、私たちはお互い顔をあわせた。

で、何て書いたんです?私はあなたを見た。

「発信者;シン・ドンヒョク・・・受信者;ソ・ジニョン。」

ええ、分かります。あなたから、私へ。私は微笑んだ。

「件名は?」とたずねた。

「件名?」あなたはまた止まって、そして私の目を熱く見つめた。

「僕の半身へ・・・」

ビックリしたわ。心臓の鼓動が早まった。どうしてあなたは、そんなに私の心に影響するの?

「な、内容。内容は何ですか?」

すると無線が音を立てた。すこし動揺し、どもりながらも無線に応答した。

「はい、ソ・ジニョンです」違う違う!ここはホテルでしょ。もとい、「はい、ソ支配人です。」

総支配人の声が無線から聞こえた。私はあたりを見回して、今ダイヤモンド・ヴィラの近くを巡回中だと伝えた。

「ダイヤモンド・ヴィラ?」あなたは興味深そうに聞いた。

私は少し恥ずかしそうに微笑んで、「ええ、あちらにあります」

私は前方に位置している、煌びやかな建物を指差した。

「見学しても良いですか?」とあなたは聞いた。

「勿論です!」と私は答えた。

ダイヤモンド・ヴィラは壮麗な2階建ての建物。ガラスの窓が外壁一面を飾っています。とてもロマンチックで黄色い明かりがガラスの窓を通して輝いていた。

「とても素敵な所ですね」あなたは誉めてくださった。勿論です!ダイヤモンド・ヴィラは我がホテルが誇る、最高級のヴィラなんです。特別なVIPをおもてなしする為に、特別に建てられました。雰囲気は素晴らしいんですが、お値段もそれなりに高いです。

「どうしてここに泊まれるよう、手配されなかったのでしょうか?」とあなたは聞いた。

そ、それは・・・「サファイア、あなたのお泊りになっているヴィラは、既に最高のお部屋です。どうしてダイヤモンド・ヴィラにお泊りになりたいのですか?」

「冗談ですよ。今のヴィラで十分です。」とあなたは言った。私は微笑んで安心した。

え、狩人?企業ハンター?そんなお仕事があるんですか? 何かを手に入れる為にソウルに来たのですか?獲物は何ですか?

私が質問をあなたにする前に、あなたはダイヤモンド・ヴィラの中に興味を持った。中に入るのは規則に反するわ・・・。

「また規則ですか?」あなたは言った。はい、規則・・・。私は少し考えて、「規則は破るためにあります!」少しだけ紹介した後に戸締りすればいいわ。

それなら大丈夫。私は微笑んで、鍵を開けた。

「中へどうぞ」

あなたは私の後からダイヤモンド・ヴィラへ入ってきた。穏やかな音楽と薄暗い照明が、広いヴィラを囲んでいる。

私はダイヤモンド・ヴィラについての説明を始めた。あなたはただ、そこに立っていた。私は説明を続けた。

するとあなたは右手を私に差し出した。

「はい?」私は目を輝かせながら聞いた。

「踊りたくなるような音楽ですね。」あなたは言った。ダンス?「でもお客様、私はダンスは得意では・・・」

あなたはまだ右手を差し伸べてる。「お客様と呼ばないで」

でもあなたはこのホテルのお客様です。お客様とお呼びしないわけには・・・。あなたが歩み寄るに連れて、私は数歩後ずさった。

「では、なんとお呼びしたら・・・」

「シン・ドンヒョク」あなたは私の目を見た。あなたはまた私へと歩み寄った。

「ドンヒョクさんと、呼んでごらん?」あなたは私のすぐ目の前に立った。

「さあ」

それはまるで魔法でもかかったかの様だった。私はあなたの眼差しで催眠術にかけられ、「ドンヒョク・・・・さん・・・・」倒れるかと思ったわ。

私はゆっくりと、あなたの右腕を腰に感じた。そしてそれはあなたへと、あなたの腕の中へと、優しく私を引き寄せた。

私は少しよろめき、そしてゆっくりとあなたの肩へと頭をもたせかけた。あなたの左手は、私の右手を取り、ダンスは始まった。社交ダンスの基礎を知ってて、良かったわ。

私はあなたのリードに任せた。緩やかな音楽の中、ロマンチックなダイヤモンド・ヴィラで。

私があなたを見つめたのを感じたのか、あなたは目を開けて、私を見た。私とあなたは同時にお互いを見つめあった。

「300本のバラでこんな・・・、呆れるでしょう?」私はそう自分で言ったのを聞いた。今こうしてあなたとダンスをしていることを、誤解されたくなかったから。あなたには、変に思われたくないわ。

「300本のバラのせいじゃない」とあなたは言った。私はあなたの暖かい息を、耳元で感じた。「では何ですか?」

「それを贈った男です。ラスベガスの時から、贈り物を続けている男のせいで、今あなたは僕と一緒にいる・・・。」はい・・・仰ることは分かりますが・・・。

「いつもそんな風に、正確な表現を?」私たちの顔は触れるほど近くにあった。私は少し震えていた。どうしてあなたはこんなに、私の心を動揺させるの?

「僕が好きな女性は、ジニョンさんの様な人です。」あなたは私の耳にささやいた。私はそれをしっかり聞いた。心臓の鼓動は早まった。足が震えてるわ!

わ、わ、私・・・もうすぐで笑ってしまうところだった。多分あなたは、私がどんなに問題を起こしやすいか知らないのね。「私みたいに、大雑把で単純な女は嫌でしょう?」本当に私の事が好きなんですか?私ですよ?

「いいえ、あなたのように、明るく純粋に生きてみたい。」とあなたは付け加えた。私の左手はあなたの肩へと移動した。

私は自分にも問いかけていたことを、あなたに聞いた。

「その言葉は本心ですか?」

あなたは止まった・・・そしてきつく私を抱きしめた。私も目を閉じ、あなたをきつく抱きしめた。私はあなたをすぐ近くに感じた。とっても近くに・・・。あなたの香りがする。

そしてあなたの腕の中で、一日の疲れが流れ落ちるようだった。

あなたの腕の中で、私は大切にされている気がした。

あなたの腕の中で、私は感謝されている気がした。

迷いが次第にかき消されていく。あなたは・・・もしかしたら・・・本当に本心から言っているのね。

突然無線の音がして、私は驚いた。私たちの抱擁は離された。私はあなたの瞳を見て、無線が邪魔してすみません。私もあなたと離れたくないわ・・・。

あなたは引き続きメールの内容を語り始めた。

「誰にも邪魔されずに、二人きりでいたい・・・ジニョンさんを僕の腕に抱いて・・・いいえ、僕がジニョンさんの腕に抱かれて・・・」

私はこれでメールの全内容を受け取った。本人から読み上げられた、とても感動的で、率直な告白のメール。私は感動して、涙が出るほどだった。

たった今私はあなたを抱きしめたばかりじゃなかったかしら?どんな言葉も私の気持ちを言い表せないわ。

私は十分にあなたの言葉によって、あなたのメールによって、そしてあなたによって、心を動かされたわ。

涙が私の目を潤した。この甘い幸せは現実?

私は緊張した面持ちで微笑んだ。無線の音が私を現実に引き戻した。私だってこの瞬間を長引かせたいわ。でもやっぱりこの無線には応答しなきゃ。

私は失礼して「すみません、応答しないと・・・」私はあなたが頷くのを見て、安心した。

無線に向かって、総支配人に応答した。「はい、ソ・ジニョンです」声まで震えてるわ。

テジュンさんが普段着でダイヤモンド・ヴィラに入って来た。「こんな所で何を・・・?」テジュンさんが私をみて、その後あなたを見た。

あなたはテジュンさんに説明しようとしてくれた。

「僕がソ支配人に案内を頼みました。ここが気に入ったので。」

感謝します、ドンヒョクさん。

「もうでるところです」私はテジュンさんに、そう伝えた。あなたはテジュンさんに自己紹介をした。

総支配人にあなたをここに連れてきた事を何て説明したら良いの?

あなたは後にその場を離れた。でも私はあなたをサファイアまで送っていくって、約束したのに。

緊張感を除いては、私も不意の邪魔に苛ついた。

テジュンさんと私は、本館に戻る道で口論になった。私たちは友達なのに、私を「軽い女」呼ばわりするなんて!

フロントでの引き継ぎを終え、私は着替えて帰宅した。お風呂に入ったら、もう夜中の12時をとっくに過ぎてるわ。もう大分怒りも冷めてきた。

夜食の事を思い出し、テジュンさんに電話をした。でも結局私達は2回も口論してしまった。

なんて人なの、テジュンさん!私は怒りながら携帯のバッテリーを外し、寝室から出て行こうとした。そしてまた電話が鳴った。3回目?

私は誰か聞く前に、電話に向かって怒鳴った。「もう電話しないでったら!!!疲れてるのよ。」どうしてそんなに私に怒るのよ!

もうこの一晩で十分怒ったでしょ?

待って・・・。私は電話からする声を聞いて、すぐに怒鳴ったことを後悔した。だって、あなたからの電話だったんですもの。「ド、ドンヒョクさん・・・」

オモオモ!!私はまた知らないうちにあなたに捕まってしまったわ。私はあなたには怒ってないんですよ、怒ってませんよ!

あなたからの電話、嬉しいです。まだ時間的に大丈夫です。そんなに遅くないです。ええ、話せますよ。いつでも。

あなたは話し出した。「眠れなくて。さっきの事を思い出して・・・」私の顔は暖かくなり、心臓の鼓動が早まった。

「実は私も眠れないんです。」

「僕のせいで、困らせたね」あなたは心配そうに言った。え~~、い、いえ、私はただ、あなたの腕の中にいたことを思い出して。「まだ震えています。」

「僕が言っているのは、そのことじゃなくて。総支配人は怒っていたみたいですね。叱られましたか?」叱られた?そうでもないですが・・・。まあ、私はテジュンさんの融通の効かなさと、小言には慣れてますから。

でもあなたは私を心配してくれた・・・。

「彼からチョコレートの香りがしました」あなたは言った。驚いたわ。どうして分かったの?

「僕は来年に期待します。来年のバレンタイン」

え?それってどう言う意味?

「待っていてもいいのかな?」あなたは再び聞いた。

やっとあなたの言ってることが分かったわ。あなたを誤解したわけじゃないのよ。でも、今この質問にどうやって答えたらいいの?

私は陽気に「じゃ、来年のバレンタインデーまで滞在なさらないと。」

「まったく・・・」とあなたが笑うのを、私は聞いた。私はすぐに「ホテリアーですから」と付け加え、微笑んだ。

「もう遅いですし、休んでください」_い、いえ大丈夫です。お話できます。「大丈夫です。あなたの声を聞いて、疲れが取れました。」私はすぐにそう言った。

ダンスをした時から、私の疲れは流れ落ちて行ったんですよ。ご存知でしたか?もう今は疲れてません。

「本当に?」とあなたは答え、「はい」と私は頷いた。

「とても嬉しいです。でももう遅いですし、お休みなさい。」と彼は言った。気を使ってくださって、有難うございます。でも本当に電話を切ってしまうの?

「お休みなさい、ジニョンさん」あなたは優しく言った。「先に電話を切ってください。」

分かりました。「お休みなさい、ゆっくり休んでください」私はそう言って、そっと電話を切った。

私はベッドに座って、メールの事やダンス、そしてこの電話での会話を思い出していた。私は微笑んで_チョコレートはもう問題じゃないわ_私は電気を消した。

私は、あなたやバレンタインデーの質問を避けてた訳じゃないんですよ。ただ、私があなたにとって、どんな存在なのか、そしてあなたが私にとって、どんな存在なのかが、まだしっかり分からないんです。

あなたはただのお客様ではない。でも私の人生の新しい男性・・・?

私の人生に突然あなたが現れたことは、私を慌てさせたわ。本当に私の事が好きなんですか?私は混乱してるし、気持ちが確かじゃない。でも確かなのは、今私はあなたの事を考えていると言う事。

あなたは私にとって、何か特別な影響力があるわ。あなたの率直な言葉は、私の心を暖かくし、そして大切にされてる様に感じるわ。

私はまだ震えている。それはあなたの腕の中にいた感触を、まだしっかり覚えているから。あなたが私をきつく抱きしめた時、そしてあなたにしっかり捕まっていた時。たとえそれが、ほんの僅かなひと時でも、とても特別な感触、そしてメールの言葉。

あなたの事を考えると、私はまどろみの場所へと流れて行くわ。

お休みなさい、ドンヒョクさん。お休みなさい・・・。

From: Zhen Yin’s Thoughts: “Good night, Dong Xian, good night” by Haze
Translator: Milomomo