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ドンヒョクのPDAより: 16「サファイア・ヴィラ」

あなたは僕を置いていってしまったのか・・・。

どうしたらいいのかわからないまま、僕はサファイアに戻った。

レオが部屋の外にいて、スーツケースの上に座っていた。

「閉め出された・・・」 むっつりとレオが言った。

「・・・キーも持っていかれた・・・男たちが3・4人やってきて・・・まったくありがとさんだよ・・・」

レオ、今はそういうおしゃべりを聞きたい気分じゃないんだ・・・。

いいだろう! ともかく、すでにゲームは始まっているということだ__僕たちも動き出す時だ・・・。

フロントで、ハン・テジュンを呼ぶようにレオが言った。

「・・・ご用件は?」 とフロント係が尋ねた。

「シン・ドンヒョクが呼んでいるとそれだけ伝えてください」

それ以外の誰かと話しても無意味だ・・・。

また例の、頭の回転の悪いベルボーイが言った。「ご用件ならまず、私どもが先にお伺いします」

この男はよほど物忘れがひどいらしい・・・腕を折られそうになったことをもうすっかり忘れていると見える。

「お前は総支配人か? 行って彼に伝えろ__ホテルを閉めることになるぞ、と」

ようやくこの馬鹿どもにも僕の言いたいことがわかったらしい。彼らはハン・テジュンに電話をかけた。

僕たちはすぐに会議室に通されたが、そのあと部屋の中で待たされ続けた。

僕は人に待たされるのが大嫌いだというのに・・・。

ようやくハン・テジュンが現れた。彼は年配の女性を伴っていた__おそらく、ソウルホテルの社長、ユン・ドンスクだろう。

ユン社長はサファイアでおきた事故を詫び、誤解から起きたことなのでもう二度とこんなことはありませんと保証してみせた。保証? 何をもって保証するつもりだ?

いつものように、僕はレオに説明させた。

「・・・情報の漏洩による損害が生じた場合には、我々は貴ホテルに対し訴訟で10億ドルを請求することができます・・・」

この二人の表情を見物するのは実に楽しかった__特に女社長のそれは見ものだった。彼女の顔にはありありと恐怖が浮かんでいた・・・。

「・・・我々はすぐにでも行動に移すことができます・・・」 レオは続けた。

レオが話の核心をつかずにまわりくどい言い方ばかりするので、僕は自分で言葉を継いだ。

「はっきりさせておきましょう。我々はボタン一つで、貴ホテルを一ヶ月の営業停止に追い込むこともできます。そうなれば、日銭を稼ぐことでやっと持ちこたえているここはどうなります?」

「貴方はいったいなぜこのホテルにいらっしゃったんです? 何が欲しいの?」 ユン社長がすっかり狼狽した様子で訊いてきた。

僕の言わせようとした言葉をもう少しで社長の口から聞けそうだったが、ぎりぎりのところでハン・テジュンが彼女を押しとどめた。

「上出来です。いいところで止めましたね」僕は笑顔を浮かべて言った__獲物に対しては、襲いかかるタイミングを見計うことが大事だ。

僕からの最後のアドバイスです__選りすぐりの弁護士を急いで雇ったほうがいい。もっとも、結果は同じですが。

これ以上はっきりしていることはないだろう。ささやかな勝利を手に、僕はレオとともに部屋をあとにした。

一瞬、ハン・テジュンと社長がまだ椅子に凍りついたままでいるのかどうか、振り返って確かめようかとも思ったがやめた。今日の午前中をそんなに無駄にすべきじゃない。

僕は自分の部屋に戻り、ハン・テジュンが動き出すのを待ち構えていたが、彼が僕の部屋に来たのは、それからゆうに半日も過ぎてからだった。

ハン・テジュンはのろすぎる・・・面白くない・・・お詫びの品を持って来た・・・オリジナリティのかけらもない・・・あなたがかつて愛した男なのだから、もう少しは頭のいい男なのだろうと思っていたが、僕が暗に言っていたことを彼は全くわかっていなかった。

「申し訳ありません、お客様」 とハン・テジュンが詫びた。それしか言うことがないようだった。

お詫びの花束?__市場で売っていた花など、売れ残りの野菜に等しい。ゴミと同じだ。

お詫びのシャンパン?__安物だな。クズみたいなシロモノだ。

お詫びのフルーツ?__親愛なる総支配人殿に、もう少しマシな提案をして差しあげるとしよう。

「このフルーツは今朝、“僕の”荷物を“僕の”部屋からせっせと運び出していた、貴方の仕事熱心な部下にあげてください。どうぞ、持って帰ってください」

「申し訳ありません、お客様」 ハン・テジュンがもう一度詫びた。では、これが彼にとっては精一杯ということか。あなたはこんな男のどこがいいんだ? 僕のどこがこの男に劣ると言うんだ?

「総支配人、僕ははっきり言っておいたはずだ。僕と勝負するつもりなら、それなりの覚悟をしておいたほうがいいと」

僕は彼に思い出させてやる必要があった__僕に勝負を挑もうなんて、彼の人生最大の過ちだったと。

それに、今になってもハン・テジュンが僕の意図を掴めずにいるということは、彼のように鈍い男には、永遠に僕の言いたいことがわからないということだ。

では、こう言い直しておこう。

「ソ・ジニョン支配人を。彼女にここに来るように言ってください。許してもらいたいなら、すぐに彼女をここに」

僕は自分の部屋に向かった。僕が要求したいのはそれだけだった。ドアを閉める前に、この馬鹿どもにはもう一度はっきり言っておいたほうがいいだろう。

「彼女一人で」

レオに退出の挨拶をするハン・テジュンの声が聞こえた。ドアが開き、そして閉まった。

僕は自分の部屋に座り、あなたを待った。

他に方法があるのなら、僕だってこんなやり方であなたを連れて来させたりはしない。

だがあなたは相変わらず僕を避け続けていて、僕にはもう他にすべがなかった。

1時間くらいたったころ、部屋のベルが鳴った__「鍵は開いています・・・どうぞ」と僕は言った。

ドアが開き、あなたが入ってきた__ソ・ジニョン支配人として、制服を着て、うつむいたまま。あなたの顔は見えなかったが、でも・・・

僕はあなたを待ち続け、そしてあなたはようやく僕のところへ来てくれた。

僕は赤ワインを2杯注いだ__僕たちにはゆっくり話し合う時間が必要だった。

だが、僕はあなたに話すことを決めているつもりでいたのに、今こうしてあなたを目の前にしてみると、何を話したらいいのかわからなくなっている自分がいた。

先に口を開いたのはあなただった。「お呼びですか・・・お客様」

“お客様”・・・“お客様”か・・・また僕は“お客様”に戻ってしまったのか・・・

僕がやってきたことすべての結果が、これか・・・。

どうぞ座ってください。僕たちは少し話をしたほうがいい。

目をテーブルにやったまま、あなたは椅子に座った。

僕はワインのグラスをあなたの前に置いた__あなたはテーブルから目を離さず、僕の置いたワインを取ろうとするそぶりも見せなかった。

「飲めば気分もほぐれます」 僕の言葉に、あなたは僕のほうを見た。

あなたの目に光る涙に僕は気づいた。

なぜ私を傷つけようとするの・・・そうあなたの瞳が僕に問いかけていた。

ジニョン、僕はあなたを傷つけたいわけじゃない。

僕はグラスを手に取った。飲む前に、僕の話を聞いてほしいと思っていた__だが、あなたは自分のグラスを取ると、一気にワインを飲み干した。

何をするんだ? どういうつもりなんだ?

「次は何をお望みでしょうか、・・・お客様?」

そう訊くあなたの声は氷のように冷たかった。

“お客様・・・”

頼むから、そんな言い方をしないでくれ。

なぜ僕たちは、狩人とホテリアーではなく、ただのシン・ドンヒョクとソ・ジニョンでいられないんだ? 

「ソ・ジニョンとしてなら、シン・ドンヒョクさんに話すことは何もありません」とあなたは突き放すように言った。

でもシン・ドンヒョクのほうにはある! シン・ドンヒョクはソ・ジニョンに話したいことがたくさんあるんだ! あなたはなぜ僕の話を聞こうとしない? なぜ僕と話そうとしないんだ!

「どうしてそんな風にどなるの?」 あなたの声には怒りが混じっていた。目からは涙が今にも溢れそうだった。

ジニョン、僕はそうしたくてしてるんじゃない。僕は今までこんなふうに自制心を失うことはほとんどなかったのに、最近の僕は自分を見失ってばかりだ。

僕たちに今一番必要なのはゆっくり話し合うことなのに、僕はまた自分を抑えられなくなってしまっている。昨日のことがあったから、今日ならきっと落ち着いて話しあえると思ったのに、僕は甘かった。

ジニョン__わからないことだらけで、僕の頭は混乱しているんだ。

でも、一つだけわかったことがある__あなたが僕をとても憎んでいるということだ。

僕があなたのホテルを買収しようとしているから、僕がこんな仕事をしているから、あなたに嘘をついていたから、あなたのホテルに僕が怒りをぶつけたりしたから、だからあなたは僕を憎んでいる・・・そうなんだね。

ではあなたはもう、僕があの時、職員出入口であなたに言った言葉など忘れてしまったんだね・・・。

そう考えることはとてもつらかった。

ホテルが心配なら、そのことは心配しなくていい__「ホテルなら大丈夫」

だが、あなたの目からは涙が溢れ出した・・・。

僕はあなたに誠意をつくそうとしてきた・・・だからそんなふうに僕を困らせないで・・・。

「誠意?・・・高いレストランでの食事が? 高価な贈り物が?・・・私ってそんなにお手軽な女だった?」

あなたは僕を責めた__僕はまるで法廷に立たされているような気分だった。僕には弁護士が必要だったが、もちろんそんなものがここにいるはずもない。

僕は自分で自分の弁護をしなくてはいけなかった。僕の抗弁を、あなたが聞いてくれることを祈りながら__「僕はあなたによかれと思うことをしたかっただけだ。それも間違っていたのか? 僕はただあなたを喜ばせたかった、ただあなたの喜ぶ顔が見たかっただけだ・・・僕はそんなやり方しか知らなくて・・・お金で買えるものでしか、僕はあなたを喜ばせる方法を知らなくて・・・でもそれがいけなかったと言うのなら、それがあなたを怒らせたなら、謝ります」

だが僕のそんな言葉も、僕から去って行こうとしているあなたには大して意味を持たないのは明らかだった。

僕からの話はこれだけだ。他に何を言わせたい? なぜ僕の言うことを信じてくれないんだ? 僕があなたを愛しているということがまだわからないのか?

あなたは泣きながら叫んだ。「どうしてこんなふうに出会わなくちゃならなかったの? どうして?」

どうして?・・・どうしてなのか・・・僕には何も答えられなかった。

僕にわかるのは、仕事は仕事、僕たちは僕たちだということだけだ。その2つが別のものだと考えれば、何も問題はないはずだ・・・それはいつか僕がレオに言ったことだったし、今あなたに言おうとしていることでもあった。

あなたのホテルなら大丈夫・・・僕が保証する。僕はあなたの大事なものを決して傷つけたりしない。あなたがそう望むなら、あなたを総支配人にだってしてあげられる・・・。

でも僕がそう言うほど、あなたはいっそう激しく泣いた。

あなたは僕に理解のできないことばかり言い続けた。

「ホテルというのはただ部屋やレストランでできているというわけじゃないわ・・・部屋はそのままではただの部屋でしかない・・・レストランだって、ホテリアーだって、お客様だってそう・・・そこにはたくさんの人たちの思いがあるのよ」

何を言いたいのか、僕には全然わからない。あなたの言うのはどういう意味なんだ? あなたは何を言おうとしているんだ?

あなたは寂しそうに言葉を切った。「それなのに、どうしてそういう思いを他人の手に渡せると思うの?」

思い?・・・どんな思いなんだ? あなたはどんな思いがすると言っているんだ・・・僕にはわからない・・・僕にはそれを感じることができないんだ・・・。

それとも・・・彼のせいなのか?

あなたは答えなかった。

ハン・テジュンのせいなのか、それともホテルなのか?

ハン・テジュンのせいだと言うのなら、僕にも理解できる。それなら僕は彼ととことん闘うまでのことだ。

だがホテルのせいだと言うのなら、僕には理解できない。ホテルがただ宿泊する部屋の集まりというだけのものじゃないというのなら、ではホテルというのは一体なんだというのか。正体もわからないものを相手に、どうやって戦える?

ハン・テジュンとホテル、あなたを離さないのはどっちなのか、知りたい。

その答えが僕には必要なんだ。

あなたが返事をしないので、僕はそのまま答えを待った。だがようやくあなたからもらえた返事は、あなた自身にすらわからないというものだった。

それは本当にわからないということか、それとも本当はわかっているけど僕には言いたくないということなのか?

時折、僕にはあなたの心が読めるような気がする時がある。だがこの時は違った__あなたが何を考えているのか、僕は知らなきゃならないんだ。どうか答えてください・・・。

「全部嘘だと・・・私をだましただけだと・・・利用しようとしただけだと・・・そう信じることができたらいいのに・・・そうすれば自分を馬鹿だと思っておしまいにできるのに・・・」

なぜそんな言い方をしないといけないんだ。僕はあなたに嘘をついたことはないし、あなたをだまそうと思ったことも、利用しようとしたこともないのに。

僕はあなたに心を許し、僕の心の中に受け入れた。あなたには僕の本当の姿を見せ、僕の本当の気持ちを伝えた・・・あなたは僕の心をあなたでいっぱいにさせて・・・そして僕をこんなに脆い人間に変えてしまった。

あなたが微笑むと、僕の心は僕の身体を離れ、空を舞っているような気持ちになる。

あなたが泣くと、僕の心はえぐられたように痛みを感じる。あなたの動きを、僕の目は追わずにいられない・・・。

僕はもうあまりにも遠くまで来てしまった・・・もう戻ることなどできない。

「私も」

涙を浮かべたまま、あなたが言った。

ではあなたも・・・僕を愛しているのか・・・。

だがそれなら僕たちはもっと幸せな気持ちでいていいはずだ。なのになぜ、こうして二人して涙にくれていないといけないんだ?

「どうしてこんなふうに私を苦しめるの?」

苦しみ・・・なぜ愛のもう一つの顔は痛みなのだろう・・・。

あなたを苦しめたくない。でも僕には、あなたに僕をわかってもらうことも、あなたの言うことを理解することもできないんだ。僕はどうすればいいというんだろう?

僕は・・・あなたが僕を赦してくれるのか、僕のところに戻ってきてくれるのか、それだけは知りたい・・・。

あなたは何も言わず、ただ首を振った。

それが最後の判決だった__僕は赦されなかった。

そしてあなたが僕のところに戻ってくることはもうない・・・。

僕は椅子から立ち上がることもできなかった・・・。

あなたは僕のもとを去って行った。

“お客様”・・・

あなたが僕に言った最後の言葉がいつまでも部屋の中に漂っていた・・・

それからしばらくして僕は立ち上がり、テーブルの上に残るあなたの涙のあとを指でぬぐった・・・。

部屋の中が急に息苦しくなった・・・僕は新鮮な空気を吸おうとバルコニーに出た。バルコニーに立ったとき、あなたがハン・テジュンと連れ立って歩いていくところを僕は目にした・・・すべてがこれではっきりした・・・。

From: Dong Xian’s PDA “Tears... confusion...” by TT
Translator: silverblue
Coordinator : Milomomo

 

ジニョンの思い:16「涙・・・」

あなたは私に会いたいと、1人で来るようにと言った。さもなければソウルホテルは直ぐにでも危機に陥る。

どうしてホテルをこんな目に会わせるの? どうしてこんな状況で私を呼び出すの?

イ支配人は行くなと言った。

確かにあなたが怒ると怖いことは知ってるけど、でもやっぱり行かなくちゃ。

だって、これがホテルを守れるただ1つの道だもの。

そうよ、あなたは紳士だわ・・・

あなたがした約束を信じてる・・・

あなたと会う時は、いつも突然の喜びや楽しい時ばかりだった。

でも今夜は別。

サファイアへの道は遠かった。

あなたに会いたいと思うわ・・・でも、でも・・・この状況は気まずい。

あの嘘は私を傷つけた。他の人から“真実”を聞きたくなかったし、それが“真実”であって欲しくなかった。

分かりますか?

あなた? ホテル? あなたはいつも私を理解してくれたのに・・・。

サファイアに着き、重い心と葛藤が入り混じった気持ちで、ドアの前で一旦立ち止まった。

あなたの前で弱さを見せたくないわ。私にとって重要となった人・・・わずかな時間の間に。

目を閉じて、深呼吸をした。そしてサファイアへ・・・

気をしっかり持って、強くなるのよ・・・

鍵はかかっていなかった。私は中へ入った、無表情で・・・

中は薄暗く、テーブルには2つのグラスと赤ワインが置かれていた。

あなたは1人で椅子に座っていた。疲れが見えるわ。私のもろい盾が更に弱くなっていく・・・

「私を・・・」

私は話し出すのがとても辛かった。

妙な静けさが漂う・・・

「お呼びですか?・・・お客様」

ソ支配人として接するのよ。

1人で来ました。

私はあなたを見た。あなたの寂しさを見るのは辛いわ。

あなたの目の中に見える痛みが辛い・・・。

「お望みは何ですか? お客様」

「座ってください」

要求?

私はドアに背を向けて椅子に座った。

「座りました、お客様」

喉に何か詰まっているみたい。

私は頑張って“お客様” と言い、頑張ってソ支配人として振舞い、頑張って平静を保ち、頑張って痛みを抑え、頑張って涙を抑えた。

テーブルに真っすぐ向かって、頑張った。

「飲めば気も和らぐ」

例え規則に反する事だとしても、私はグラスを取り、ワインを飲み干した。

まるでこの前の焼酎みたいに、ワインの味も苦い・・・

私は空のグラスをテーブルに置き、

「お客様のおっしゃる通り、飲みました。気分は・・・変わりませんけれど・・・」

な、涙が・・・持ちこたえて!

あなたに向き返った。目が涙で覆われそう。

「次は何をお望みでしょう? お客様・・・」

「従業員と客ではなく、シン・ドンヒョクとソ・ジニョンとして話がしたい」

とあなたは柔らかく言った。

私は何を言ったら良いの? 

私はあなたを見た。愛しい・・・

野心? 職業? 私はホテルを裏切った。私はスパイ。

「ソ・ジニョンとしてなら、シン・ドンヒョクさんに話す事は何もありません。」

僕はあるんだ!

あなたはそう叫んだ。

私だって話したいことはあるわ。でも今話せる? 

何故怒るの? どうしてホテルを訴えなくてはいけないの? どうしてこんな風に私を呼んだの?

「正体がばれて仕事に支障をきたしたから? そして最後まで私を騙せなかったから?」

「ソウルホテルは大丈夫だ。」あなたは言った。

大丈夫? どうもありがとう。ではどうして私を無理やりここへ来させたの? 

あなたにこんな風に接したくない。こんな風に言いたくない。でも・・・

何が誠意なの? 高いレストランでの食事が? 高価なプレゼントが? あなたの目には、私がそんな風に映ったの? お金で買えるって。

私は買えないわ・・・

「僕はあなたに良かれと思うことをしたかっただけだ。それも間違っていたのか? 僕はただあなたを喜ばせたかった。ただあなたの喜ぶ顔が見たかっただけだ・・・僕はそんな方法しか知らなくて・・・でも間違っていたのなら、謝ります」

とあなたは言った。

分かりました。そうね、私は幸せだったわ・・・でもそれはあなたの思いやりのお陰、あなたの魅力、あなたの言葉・・・これらがお金で買えない、私の幸せなの・・・

「あなたの立場では、正しかったはずです。」

あなたは狩人。あなたの仕事は狩をする事。その点からいけば、間違ってないわ。

でも・・・どうしてソウルホテルを獲物にしなくてはいけなかったの?

どうして私がそのホテルの支配人なの・・・?

「まだ信じてくれないのか?」

あなたは声を上げた。

信じる? わ、私は・・・

私はホテルを代表して、許してもらいに来たんだわ。

ホテルは大丈夫とあなたは言った。

約束を守ってくれますね。

「もう失礼します。お客様」

涙がこぼれ落ちる前にここを出たかった。

「どうして僕の気持ちが本心だという事が信じられないんだ? あなたを愛しているんだ!

あなたはそう叫んだ。

涙が私の目を覆い、席に戻った。

わ・・・私は、信じてる・・・でも何を今更変えられるの? この状況? この事態? 

私はとうとう泣き出してしまった。

「何故こんな出会いを?・・・他の仕事なら良かったのに。よりによって、私の愛するホテルを潰しに・・・?」

「わからない・・・」あなたは言った。

分からない? ホテルは単なる空のホテルじゃないの。ホテルはレストランや部屋があるだけじゃないんです。みんなが一丸となってお部屋をつくり、お客様にくつろぎの場を与え、夕食やごちそうを時間通りに用意して、頑張ってるんです。少しずつ、1つ1つ、感謝や想いが募っていっているんです。

自分の仕事に誇りを持ってるわ。何年もかけて仲間との間に親しい関係を築きあげてきた。沢山の時間と努力をかけて、みんなが力をあわせて沢山の障害を乗り越えてきたり、一緒に問題を解決してきたわ。

これら全てが大切な思い出なの。総支配人の座を夢見てるわけじゃない。好きな仕事をしてるだけ。単なる仕事じゃないの。ホテルをどうやって忘れろというの? どうやってこの思い出を無しにしろというの?

どうやって・・・?

涙がこぼれ落ちた・・・

「ハン・テジュンとホテル、あなたを離さないのはどっちですか?」

テジュンさん? ホテル?

それだけじゃないわ・・・もしあなたへの特別な想いさえなければ、私はこれほどの痛みや混乱を抱えなくて済んだのに・・・

「わかりません、本当に分からないんです・・・」

涙が更に溢れ出る・・・

できる事なら・・・いいえ、私はもうすでにあなたを信じてる。

むしろ信じられなければ・・・嘘だと、計画的に私を利用しただけだと、そう思って私さえバカになってしまえば、気持ちも楽になって、忘れられるのに。でもこの痛みは激しく、この想いは本物・・・私はあなたを信じてしまっている・・・

「僕は多くを捨ててここに来たんです。あなたと離れるには、もう遅すぎる」

あなたはそう言った。

心に響いてくる。

「私も・・・・・・」

あなたは私にとって、大きな存在となってしまった。気持ちは通じ合っている。

愛しています、ドンヒョクさん。

あなたの寂しさや疲れ、涙を浮かべた瞳は、私を辛くさせる。

私も悲しいです・・・あなたはすでに私の人生の一部。できる事なら、あなたをきつく抱きしめて、あなたの心を癒して上げたい・・・でも、どうしてこんな風に出会わなければいけなかったの?

ここで、今、ホテルを隔てて・・・どうして・・・なぜこんな風に私を苦しめるの?

「僕のところに戻ってくる?」

心は戻りたい、でも頭ではダメと・・・

どうしたらあなたの元へ戻れると言うの? 

あなたの涙は私の心に焼きついた。それは私を辛くし、傷つける。私の持ち合わせる全ての抵抗力が崩れ落ちた。

私は深く息をして

「話が終わったのなら、これで失礼します。お客様」

私はサファイアから逃げ出した。

私は走った。涙が顔を覆っている。壁に隠れて泣いた。

私達はお互い近づきすぎた。ロスからソウルへ、驚きから実感・・・私は愛する人の近くにいる。すぐそこに、でも遠い・・・どうして・・・?

総支配人が来た。

「何もなかったわ、私は大丈夫よ。ホテルも大丈夫」

本当に私は大丈夫? 私は総支配人の後について、本館へと歩き出した。

数歩進み、振り返ってサファイアを見た。あなたのいる所。

言葉もなく、歩いた。

指をさされている感じがした。言葉のヤリが飛んできている感じ。更衣室へ行く途中、総支配人は、ソウルホテルの支配人がホテルでの事件に干渉するなと指示してきた。

干渉するな? 総支配人には分からないわ。

ホテルの為に、私は反対側に立ってしまった。ホテルの為に、私達は涙した・・・

干渉するな? 説明するのは難しい・・・明らかにするには疲れ果てた・・・

私は向きを変えて、更衣室へと入って行った。

ロッカーの前で私は立ち止まった。

従業員出入り口でのキス、あなたの愛、約束、言葉、私の痛みや辛さを映し出した、あなたの瞳を思い出していた。

たった今こぼした涙・・・あなたの顔の表情は今でも新鮮に記憶に残ってる。

あなたは狩人で、ホテルがあなたの獲物だという事は明らかだわ。そして、私達はお互いに惹かれあっている。

そして今、私の一部であるホテルと、愛するあなたとの間に挟まれていることは少しの濁りもないほど明らかなこと。

この板挟みの中、私は何ができるのかわからなかった。

椅子に座り、手で顔を覆った。

再び涙が頬をつたい落ち、私と一緒に心も泣いている・・・

From: Zhen Yin’s Thoughts: “Our tears...” by Haze
Translator: Milomomo